2009年 最後の１／４
ファニーと私はバサンクスに着いた。運悪く二人とも風邪をひいてしまって、川の辺に来るボノボを丸木舟から見るだけで満足しなければならなかった。
スージーとトラッカーたちは大変だった！ 川の水嵩がもっとも高い季節で、ボノボが島状になった地面から地面へ林冠をやすやすと渡って移動するのを、胸まで水につかりながら追跡しているの。ボノボたちがその夜の寝床を決めるとその日の追跡は終わりなのだけど、よく彼らは腰までずぶ濡れだったわ。こんな長靴をはいて歩き回るなんて上利よね！
ベニの事故死
火曜の4時頃、スージーから連絡があった。“ベニの腕から手首にかけてざっくりと傷が開いている。出血はひどくはないけど深い傷よ。
右手が湾曲して他のボノボたちが傷口をなめに来ているの。
かれらはＭｏｍｂｅｎｇｅｌｅ岸に向かったわ。“
ファニーとグラデスと数人のエコ・ガードが密猟監視パトロールから帰った。グラデスがクリスマスにママからもらった自慢のカメラで
ズームして見ると、その傷がとても重症なのが分かったわ。
ベニは汚いたまり水に入るのが好きだし、傷を治すには、縫合をするのが良いと決まった。
どこかファニーが手術をできる場所でベニをひとりにしなければならない。
ボノボのグループは囲いに帰りだした。皆は入り、ベニは後尾にいた。いまだ、チャンス！ 静かに、ボノボに気づかせないように背後のドアを閉めた（スージーはずっとこの練習をしてきた）。水は囲いまで迫り、手術はボノボの居住区の外ですることになった。ファニーとスージーはカヌーをちかくの森にあるちょっとした岸に向けた。かれらはベニのところへ戻り、慰め、毛づくろいし、そして、ファニーはDomitorを1ダースもベニの口に塗りこんだ。数分すると麻酔をかけられるようになる。物音立てずにベニを彼らの視界から丸木舟に移した。彼らは私たちを信じているので騒いだりしなかった。丸木舟はベニを孤立した囲いに続くトンネルへ連れ戻った。“ここで手術するわ”ファニーが宣言した。
彼女の手術の腕前は感動的だった！いろいろな筋肉を縫い合わせ、目にもとまらぬ速さで表面をシャネルの縫い子さんのステッチみたいに縫合した。“だれかが縫い目をほどかないといいのだけど。”我々は、好奇の目からわれわれを隠していたタープを外し、麻酔がもう醒めそうになったベニを囲いに戻そうとした。数日はベニを仲間から離しておきたかった。仲間たちは大丈夫だろう、彼らはもう皆われわれから離れて、囲いからそれほど遠くないところに寝床をつくろうとしている。
そして、ベニは自分で囲いの中に寝床を作り始め、われわれはファニーがいなかったために起こったスージーの大騒動が無事に収まったことをお祝いしようとキャンプに向かっていた。キンシャサからバサンクスへのたった1回の週便がとても長いものに感じられた。6か月ベースでボランティアの獣医師を探すときだと思った。
このことで、私はスージーとグラデスのドリームチームを褒め、数週間後の3人のトラブルメーカーのローラへの受け入れの用意で、獣医が上在であったことを詫びた。（詳細はブログをご覧ください）
エコロでの仕事
マリエールが去った後の9月のある日、スージーは再導入プロジェクトのチーフに指吊された。
当初から、我々はマリエールの足跡を見てきた。彼女はブライアン博士の最高の生徒として能力を発揮した。彼女のボノボ研究は実に情熱的だった。自分の経験から言うと、エコロは彼女にとっての適地だった。彼女の優先項目は再導入するボノボの健康と福祉が保たれ、森でのモニタリングがきちんとされることで、優しくそして断固とした態度で20人余のフィールドスタッフをまとめた。トラッカーは一日中ボノボが移動するのを追跡している。丸木舟のエコ・ガードはボノボの保護を地元の人々に伝えるのに毎日忙しく、また、罠を仕掛けないように反密猟パトロールをしている。
実に大いなる実行力である！ 軍隊式の規律で統制されているキャンプの管理を忘れてはならない：ママシェフの台所を監視するトーマスによる食品管理、最後に残っている施設の建設。もちろん、スージーはたった一人でこれを全部やったのではない。マリリンが雇った“右腕の男”たちがそれぞれの部署の仕事を成した。
ボノボたち以外では、地元の人々に対してのマイクロプロジェクト(小口金融)がＡＢＣの活動の中心になっていた。バサンクスでは、社会学者のＡｌｐｈｏｎｓｅが地方行政との交渉とＡＢＣの社会経済活動を担っていた。彼の経歴を考慮して、マリエールは彼に放飼プロジェクトの初期にピエロが始めていた社会経済調査を引き継いでもらった。我々はＬｏｐｏｒｉ川の周辺の隣人たちを理解し、戦争中の長い期間に国の中心部から分断されて経済活動が機能停止となっていたためにおこった問題を知らなければならなかった。（過去１０年で、赤道州は2度の反乱軍の統治を受け、商取引が停止し、略奪を受け、川の交通手段は失われていた。このことは、キンシャサから物資を運ぶ船は無く、首都へトウモロコシや毛虫といった地方の産物を送る手段のないことを物語っている。そのため、彼らは往年の森での狩猟採集・漁労にたよる生活にもどり生き残りを図らなければならなかった。）
われわれはさらに、地元住民の日々の暮らしに放飼プロジェクトが与える影響を明確にしなければならなかった。フランス社会開発基金やＤＲＣカナダ大使館といった協力者のおかげで、われわれは地元の要望のいくつかに速やかに答えることができた。（ｗｅｂサイトに詳細をＵＰします）
ＡＢＣとＡＷＦ（アフリカ自然基金）はすべて種類の宗教団体と“創世記論者”協会に定期的に手間取らせられる。彼らは “人のみをその似姿として創造した神に立ち向かい、彼を一部のいやしい動物よりも下位におとしめる” 我々のような者に反対するようにと手下に呼びかけるのだ。
われわれの仕事は、明瞭に語ること、繰り返し教育すること、生物多様性について説明することだ。予想される絶滅から我々が救おうとしているボノボは、コンゴの自然の宝であり、だからこそ、その存在はこの広大な森林の土地における人間生活の発展にも希望と成り得る。もし、平和が保証されるものならば、エコ・ツーリズムはすみやかに運ぶだろう；いっぽうで、我々にはその前にやることが沢山ある。もし、ボノボの保護がゴールならば、われわれのプロジェクトを根付かせるためには地元の人々を手に手を取って助けることが必要だから。
今日、われわれの活動の３０％がボノボのために、なんと７０％が川沿いの村の住民に充てられている！ 実際のところそうなのだ。
だが、赤道の燃えるような気質からくる人の暖かさとほほ笑みがそういった努力へのお返しとなる。化学変化のように！
そこでマシューは新たなVDCｓの立ち上げを続けた。その活動はここ数年の間、誰もがずっと待ち望んだ希望の種なのだ。
森の中で第2弾
ローラ・ヤ・ボノボに戻って、トラブルメーカーのマックス、リサラ、ロマーニはすぐに旧友とかつてのすみかを確認した。また、エコロでは、スージーがセント・アンドリュー大学のザナ・クレイの助けを借りて、トラッカーたちの統制を再開していた。ジェロームとベアとルイーズが最初に森に入った。かれらは、Etumbe,Mbano,Nsomi,Beni,Kubulu,Lukaya,Lomelaのグループを夜の寝床を確認するまで一日中追跡した。 なんとも困難な時期だった！ 水位は上がり、いつもの年と同じ様にコンゴ川の中央にぽつんとある森をまるごと水浸しにした。
放たれて以来、ボノボたちは本当の森の住人に戻った。トラッカーだけでなく時として胸まで黒い水につかっている。誰もボノボがどこに行くつもりか予想できない。夜には囲いから程よい距離のMombengele北岸か南岸の大きな木でくつろいでいても、昼間には何キロも離れた場所に行っていたと思われるのだ。スージーのチームは彼らを追跡した。“まだ学校にいるみたいね”彼女はかばって言った。
われわれを意識せずにボノボたちが活動してくれるようになるのが到達目標となる。“GPS”のあだ吊をもつKubuluは、ボノボたちがどれほど先に行ってもそこへ連れて行ってくれる。ボノボたちは、若葉を食べ、野生の果物の種を食べながら動き続けた。このころの森はみずみずしく柔らかな紅い葉で満ちていた。ボノボたちはその葉を、何時間も味わい、詰め込んでいた。そのあと、彼らが長い怠惰な昼寝をする間に、トラッカーは二つの沼地に囲まれた固い地面でしばしの休息をとる。昼寝の間は下生えの中はすべてが静かだ。最年少のMbanoとその4か月齢の妹のNsomiがEtumbeの周りで遊びを続けている。ほかの個体は急ごしらえのネストか地面で寝ていた。
Lukayaは高齢で妊娠が重く、活発な皆に付いていくのが大儀そうだった。2人のメスがいてくれて幸運だった。一人は妊娠していて、一人は授乳中だったが、大洪水の間、いつもと変わらずグループを率いてくれていたのだ。彼女たちは、仲間に新しい離れた縄張りを探すように仕向けようとはしなかった。放飼場の周囲5キロで充分だったのだ。（日本人の社会行動学者とそのトラッカーは、彼らの追っている野生グループは、毎日ほぼ同じところに居ると言っている。通常“中心基地”から遠くに移動することはない）
ここでスージーは宣言した。新たな展開を考える前に、ボノボたちを数か月間静観しましょう。過去12か月に多くの問題に対処してきた。6か月間は、検疫のための隔離と住みかから１０００ｋも離れた場所に移すための慣らしの期間だった。新しい環境に適応させ、新たな食性（質、量とも）を持たせ、LOpori川の黒い水を飲むことにも慣らさなければならない。Nsomiの出産までに、Mbanoはもう巣で一緒に眠ってくれなくなる母親と離れる経験をしておく必要がある。数個体がヒトと共生することを拒否したので、3個体をローラに戻さなければならなかった。それは彼らの社会を構築するにおける重要な空間となっている。そのあと、彼らはトラッカーの存在を受け入れなければならなかった。そして、間もなく、Lukalaは出産を迎えることになる。“少しの猶予で十分よ”スージーとクロディーンが言った。しばらくはこのペースで行きましょう。1月の始まり、大水の季節の収束を待って新しい冒険を引き受けましょう。
かたやローラでは
我々は手をこまねいていたわけではない。囲いNo.3を再放飼のための訓練場に改造した。７～８歳の若い１２個体を成熟個体のTemboと子持ちのSalongoに率いてもらい、トラッカーに慣らす訓練を始めることになっている。今は最初の６個体のグループをイブラヒム（この計画のためにバサンクスから特別にやってきた）が一日中追跡している。囲いNo.3の飼育員ジーン・クロードと保育園のママYvonneがやってきた。
午前8時に、森のあらゆる場所に餌がまかれる。9時には、追跡グループは3時間の探索に出かける。昼に一休みして、午後には追跡を再開する。2か月後、期待されていたように、ボノボたちは追跡をまったく意に介さないようになった。ときおり、訪問者がかれらに同行することもあるがボノボは彼らにめったに構わない。
保育園は訓練前サイクルに入っているが、年長の個体はすでに自由に慣れている。“控え保育園”は年長個体たちが遊ぶための木の茂った新しい場所でママたちからはもっと離れていた。
Sandoa, Lomako、Kodoroのアカンボウたちだけが、養母たちの傍にいた。けれども、保育園では最年長のKatakoは探検家グループのところによくアカンボウの一人を連れて来た。
我々はまた、Sakeをその養母のヘンリエッタ（3年以上保育園におり、一番叱らない）から離そうとした。だが、計画は頓挫した。ほんの短い時間囲い３にいて、すぐに保育園に帰った。“そう言ったでしょう”ヘンリエッタが文句を言った。“彼女は難しいのよ。私は彼女がまだ準備ができてないのを知っていたわ”分かったわよ！“おかしらの御嬢さん”は保育園での最上位に返り咲いた。
まだママのヘンリエッタがときどきブツブツ言うのが聞こえるけれど、
それ以来、Sakeは後退している。ちょっと大げさだかもしれないが、皆がそう言っている。特に、そのやんちゃな生き物がうっかり開けっ放しになっている囲いのドアからこっそりと抜け出そうとしているのを見ればそう思うでしょう。
Kinsukaの押収
11月には、環境省の調査官の協力で、われわれはKinsukaと言う小さなメスの押収を成し遂げた。ああ、努力の限りを尽くしても彼女の健康は回復しなかった。もうすっかり弱っていた。年の初めころ、我々は売人の手から彼女を救い出すところまで来ていた。でも、腹をたてた売人は彼女をさらった。その男が彼女を隠し、家族にその小さな生き物を渡したことが近隣住民の通報のお蔭で発覚した。環境調査官が職権を行使してこのちびさんを押収したけれど、そのときには、彼女は骨と皮だけの姿だった。
男の妻は、男はボノボに餌をあたえる金も残さないで、もっと多くのブッシュミートや他の動物を手に入れるために赤道州に帰ってしまったと言った。彼女は自分の子供たちに満足に食べさせることさえ出来なかったのに。
我々がそのアカンボウを受け取ったとき、ロープが彼女の臀部の筋肉に食い込んでいた。ファニーがロープを優しく切り取ったけれど、その子はロープを離そうとしなかった。彼女はその痩せ細った手にロープを握りしめていた。まるでそれは彼女の最後の宝のようでもあり、最後の苦痛でもあるようだった。 その翌日に、その子は亡くなった。
Vangaの死
4本の手を持つボノボが樹上での曲芸に長けているのは事実だけれど、事故も起こりうるのも事実。
11月。放飼の訓練中である囲いNo3の“小さなやんちゃなやつら”が木から木へ、枝から枝へと飛び移っていたとき、突然Vangoが墜落した！ 彼は頭から落ち、折れた枝がかれの大腿部を貫いた。大動脈を切断しているように思われた。気絶していたVangoはTemboによってわれわれのところへ連れてこられたのだけれど、どくどくと血を流している友の動かない体を、Temboは渡すのを拒んだ。最終的に、渡されたとき、クレメンスとアンマリーは（ファニーは私とエコロにいたので）縫合手術をしようとした。しかし、それは遅すぎた。私たちの小さな友はすでに永遠の眠りについていた。
Vangoはみなに愛されているボノボだった。2003年の流行性の病気で亡くなった私の愛する美しいBoendeにとても似ていて私は彼に特別な感情を持っていた。私はキンシャサのアメリカンスクールへ彼を引き取りにいった。そこまでは、彼はVangoから飛行機で、アメリカ人の宣教師の家族に連れられて来ていた。父親から彼を受け取る間中。娘さんが私に、彼のことをよろしくお願いしますと言い続けていた。“ちゃんと世話をしたわよ”と彼女に言いたかったけれど、幸運は私に味方しなかった。
Nioki、母になる
この今年最後のニュースレターの締めには、良い知らせもある。おちびさんのNiokiが今や小さい男の子のおかあさんになり、我々はその子を“Bomengo Ya Lola”（楽園の財産）と吊付けた。看護の当初の困難に関わらず、ママ・ヘンリエッタが若い母親たちの進歩を見守っている保育施設に11歳の若い母親とその子は合流した。
“時間がどれほど早くたってしまうか想像できる？”とバレリーが語気を強めた。“私のかわいい小さなNIokiに赤ちゃんがいるのよ”（Niokiはサンクチュアリに着いたときはほんとに弱よわしくて、バレリーが直々に世話をしてから、ママ・ヘンリエッタに渡された。とても神経をつかう仕事で “イタリアン・スタイル”と呼ばれていた。だって、Niokiが口にするのはスパゲッティだけだったから。2000年の＃３レター参照）
“わかりました。おばあちゃま”笑いながら、“みんなでお祝いに一杯やろうって言ったらどう？”って私が言うや否や、この新しいアカンボウを歓迎する飲み物と笑いと健康を祝す乾杯の声があふれた。
ローラでのクリスマス
ローラ・ヤ・ボノボでは、サンタさんのベルはもう響いている。子供たちには、素敵なランチ、新しいゲーム、クリスマス・ソングを、すべての従業員と協力者たちにはクリスマスに家族で囲むごちそうを。スージーとグラデスは休暇でキンシャサに帰り、ファニーはフランスの家族の元に行った。バレリーとクロディーンもお祝いをするでしょう。みなさん楽しんでね！
忙しかった1年も終わり。あなたは、ブログやニュースレターを通じて我々の喜び、幸せ、悲しみも全部共有して下さった。心の揺さぶられることでいっぱいの1年でしたね！
だけど、未来をみつめましょう。ママ・ヘンリエッタが好きなこの言葉みたいに。“ローラではね、私たちはいつだって前進あるのみよ”
そうね、あなたは正しいわ、ヘンリエッタ。でも今はこうも言わなくては “エコロではね、やっぱり前進あるのみよ”
Bonana皆様！
良いお年を！